2023年8月 5日 (土)

京都ビジョン2040 ~世界交流首都・京都~

国連の「持続可能な開発目標」であるSDGsという概念の理解と目標達成には、未来から今を創るというバックキャスティング思考が不可欠である。日本は、経験則を積み上げることによるフォアキャスティングキャスティング思考が主流であっただけに、未来の日本を考える上では、バックキャスティング思考は、新たな時代の価値観を模索するにあたり極めて重要なテーマである。

今から13年前、京都府知事・京都市長・京都商工会議所会頭、大学、文化人の代表で構成される「京都の未来を考える懇話会」が立ち上げられ、3年間の議論の末、2013年に「京都ビジョン2040」という提言が出された。それには、2040年にあるべき都市として、1つの理念(コンセプト)と、3つの都市像が提起されている。1つの理念(コンセプト)とは、「世界交流首都・京都」であり、3つの都市像とは、それを実現するためのより具体的な都市のあり様として「世界の文化首都・京都」「大学のまち・京都」「価値創造都市・京都」を提起し、その実現のための具体策として、双京構想をはじめ文化庁の京都移転留学生5万人構想が、この時打ち出されており、今日の京都全体の政策体系の核となる「文化首都・京都」の淵源となっている。

各自治体の基本方針(未来への道筋となる基本理念)については、行政的には、「基本構想」と「基本計画」という2つの政策体系で構成されており、京都市では、共に議会の承認が必要とされている。「基本構想」というのは、概ね四半世紀(25年スパン)の枠内の政策課題をターゲットにし、「基本計画」というのは、概ね10年のスパンで施策推進を図るものだ。現在、京都市では、現在の構想が2025年で終了することから、2026年以降2050年における京都のあるべき姿(ビジョン)の構想策定に向けた準備を進めているが、時代が大きく変化し、情報化やグローバル化の進展ともに、人口減少社会の到来によって、価値観も大きく変革を余儀なくされている中で、私たちの住む都市の確かな未来を見通すには、基本構想や基本計画の元となる、より大きな視野に立った知見が、何よりも重要である。京都市が昭和53年に宣言した「世界文化自由都市」は、すべての政策の最上位に位置付けられているが、「京都ビジョン2040」は、宣言より50年が経過した中で、「世界文化自由都市」という都市理念を、急激な時代の変化にも対応できるようバージョンアップさせたものとも言える。

「京都の未来を考える懇話会」が2013年に提案した「世界交流首都・京都」という都市理念(コンセプト)は、ウクライナ情勢にみる平和と戦争をはじめ、環境破壊や自然災害等、未曾有の地球的規模の課題に直面している「今の視点」で模索すれば、今ほど、その理念が希求されている時はないと確信する。2040年というターゲットまであと17年。世界」「交流」「首都」「京都」のキーワードは、未来の都市政策の礎になる不変の視点として議論を深めていく必要がある。

来年度には、京都市も次期京都市基本構想の議論が深まってくるに違いない。その起点となる京都市長選も2月に迎えることになり、京都の未来への進路が、今、大きな転換点を迎えている。17年先と言えば、今年生まれた赤ちゃんが17歳になる年数である。18歳選挙権行使を考えれば、この17年間の責任は現在を生きる大人の責任でもある。

2023年7月27日 (木)

グローバル政治都市・京都へのアプローチ

この度、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院教授で、同大学院付属ライシャワー東アジア研究センター所長の知日派であるケント・E・カルダー教授の研究書籍「グローバル政治都市」の日本語版が発刊され、さっそく興味を持ち一読したところ。

コロナ禍で開催が危ぶまれたオリンピックを開催した東京。ウクライナ情勢の平和的解決を目指すG7サミット(先進国首脳会議)の舞台となった広島など、国家的課題の解決に向けてのアジェンダを設定し、その舞台を提供した都市の機能と役割が注目されるようになってきている。その意味では、2025年の大阪万博もその役割を果たす舞台となることに違いない。
さて、そもそもグローバル都市の概念は、四半世紀前に社会学者であるサスキア・サッセンが行った、国を枠組みを超えた社会・経済的視点から大きく変貌する大都市の研究で知られているが、カルダー教授は、さらにこれまで国際政治論の世界では、あまり研究対象となっていなかった「グローバル政治都市」としての研究分野に光を当てたものである。グローバル政治都市は、1970年代以降、情報、技術、金融における大変革と地政学の大転換の中で、既にその兆候は生じてきていたとし、グローバル化の急速な進展を背景に、グローバル政治都市が今後の国際政治の中で、重要な視点となることを指摘している。教授はその概念として、①国家の首都において政府が遂行する最も明確な政治の機能としてのガバナンス(統治機構)としての機能、②アジェンダ(課題設定)と政策提言機能、③資源の割り当て(予算配分)という3つの機能を指摘している。そして、グローバル政治都市とは、「国際政治や経済に影響力をもち、ガバナンス、アジェンダ設定、資源分配が集積し機能する政府を超越したコミュニティ」と定義し、また、グローバル政治都市のもつ多面性について、①政策助言複合体としての都市、②講演会やレセプション等の国際会議のような討議する場としての都市、③草の根政治運動の舞台としての都市、④行動する市民リーダーの登場も示唆しながら、グローバル政治都市の対象として、世界の15都市をピックアップしている。具体的には、ワシントンDC、北京、ジュネーブ、ロンドン、ブリュッセル、シンガポール、パリ、東京、ニューヨーク、ソウル、サンフランシスコ、カイロ、バンドン、杭州、香港の15都市である。

グローバル政治都市が、その要素の一つである「権力の半影」といわれる国家の政治機構(ガバナンス)を都市レベルでも対応できる必要性があることから考えれば、国家の首都は、条件さえ揃えば真っ先にグローバル政治都市になりうるものである。15の都市を見ても、国家から都市へのシフトの研究であるがゆえに、当然、国を代表する首都たるべき都市に光が当たっていることは避けられないが、今後、グローバル化、ネットワーク化が更に進み、国家からグローバル政治都市にシフトする流れは加速することを見据えれば、グローバル政治都市自体をサポートする、次なる都市(サブ・グローバル政治都市)の存在も生まれてくるのではないかと政治に身近なところで接してきた地方議員経験者の一人として感じている。それは、政治を志して以来、一貫して感じてきた、未来学者アルビン・トフラーが指摘した21世紀グローバル時代における民主主義の行方を政治家として肌身で感じてきたからである。ただこれは、「グローバル政治都市のネットワーク化の行方?」とでも言える今後の研究課題であり、カルダー教授をはじめ後世の専門学者の研究に委ねたい。

今年、文化庁が京都に全面移転し、国家の統治機構の一部が京都にきたが、今後急速に進展するグローバル社会の中にあって、京都はどういった都市になるべきなのか、世界に対してどのような役割を果たすべきなのか等、世界自由文化都市宣言の今日的意味を再考し、未来ビジョンを再構築する必要性が高まっていることは確かである。文化を基軸にしたソフトパワーによる国際問題を解決する舞台としての都市、あるいは、世界歴史都市連盟等、世界をつなぐネットワーク力を最大限に活かす都市など、考察する意義はあるのではないか。カルダー教授の「グローバル政治都市」へのアプローチは始まったばかり。グローバル政治都市・京都へのアプローチ如何によっては、カルダー教授の定義に、新たに「グローバル文化都市」との視点を加えることのできる唯一の都市が京都ではないだろうかと感じさせた一書である。

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