2023年12月 3日 (日)

絵本の復権

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11月30日は、絵本の日。

京都市が、11月30日の「絵本の日」に併せ、伝統産業と絵本コラボした「京都のモノ語りプロジェクト」の事業を昨年に引き続き実施することとなった。事業の主旨は、過去・現在・未来へ、工芸品を使うことで紡がれてきた生活文化・伝統文化や匠の技に込められたモノづくりへの想いである「ものがたり」を、絵本とコラボすることで、歴史の底流に流れる文化を、世代を超えて繋ぎ紡いでいくこととしているようだ。私も、高齢世代の仲間入りをしているが、改めて絵本のチカラを見直すきっかけになればと思っている。はずかしながら、11月30日が、「絵本の日」であることを初めて知った。この日が、絵本の日と制定されたのは、作家であり、評論家、翻訳家として有名な瀬田貞二さんが「絵本論」を発刊されたことに因み、日本記念日協会によって今からおよそ10年前の2012年に認定されたようだ。

瀬田貞二さんについて、絵本ナビライターの大和田佳世さんが、評論しているので、一部紹介しながら私見を述べたい。

絵本論」は、「ひとの最初に出会う本、それは絵本です」というニュージーランドのドロシー・ホワイトという図書館員の言葉の引用から始まります。詳しく引用すれば、「絵本は、子どもが最初に出あう本です。長い読書生活を通じて人の読む本のうちで、いちばん大切な本です。その子が絵本の中で見つけだす楽しみの量によって、生涯本好きになるかどうかが決まるでしょうから。またそのときの感銘が、大人になってそのひとの想像力をことあるごとに刺激するでしょう。だから、絵本こそ、力をつくして、最も美しい本にしなければなりません」…。
その上で、瀬田貞二さんは、「子どもたちを静かなところにさそいこんで、ゆっくりと深々と、楽しくおもしろく美しく、いくどでも聞きたくなるような素晴らしい語り手を、私たちは絵本と呼びましょう」と、絵本を定義し、「絵本は、小さい子どもたちにとって、手にとれる生き生きとした冒険の世界です」と語っています。瀬田貞二さんが、絵本について語り始めた1956年当時は、まだ絵本の市民権は、ない時代。全体的にはまだ絵本の評価が定まらない混乱期あったようです。そんな中で、瀬田さんは、平易、明快な論旨で欧米のすぐれた絵本や評論を紹介し、子どもを楽しませ、遊ばせ、冒険に誘い、元気づけ、世界を見、感じるチカラを助長させてやるもの、…そこに固有の文法があると論じたのです。

今、世界が、平和が、人権が、脅かされている時代に私たちは生きている。真の世界平和を創るために、国家間の対話をはじめ人道の連帯に多くの関係者が努力している。克服への道のりは長いかも知れないが、文化のチカラによる解決策が求められている中、「絵本のチカラ」をもう一度見直すべきではないかと感じた一人である。先行き不透明な時代であり、混迷する時代であるからこそ、瀬田さんが戦後の混乱期に主張したように、今こそ、絵本に親しみ、平和な心を育むべきなのかもしれない。絵本の復権を祈りたい。

2023年8月 5日 (土)

京都ビジョン2040 ~世界交流首都・京都~

国連の「持続可能な開発目標」であるSDGsという概念の理解と目標達成には、未来から今を創るというバックキャスティング思考が不可欠である。日本は、経験則を積み上げることによるフォアキャスティングキャスティング思考が主流であっただけに、未来の日本を考える上では、バックキャスティング思考は、新たな時代の価値観を模索するにあたり極めて重要なテーマである。

今から13年前、京都府知事・京都市長・京都商工会議所会頭、大学、文化人の代表で構成される「京都の未来を考える懇話会」が立ち上げられ、3年間の議論の末、2013年に「京都ビジョン2040」という提言が出された。それには、2040年にあるべき都市として、1つの理念(コンセプト)と、3つの都市像が提起されている。1つの理念(コンセプト)とは、「世界交流首都・京都」であり、3つの都市像とは、それを実現するためのより具体的な都市のあり様として「世界の文化首都・京都」「大学のまち・京都」「価値創造都市・京都」を提起し、その実現のための具体策として、双京構想をはじめ文化庁の京都移転留学生5万人構想が、この時打ち出されており、今日の京都全体の政策体系の核となる「文化首都・京都」の淵源となっている。

各自治体の基本方針(未来への道筋となる基本理念)については、行政的には、「基本構想」と「基本計画」という2つの政策体系で構成されており、京都市では、共に議会の承認が必要とされている。「基本構想」というのは、概ね四半世紀(25年スパン)の枠内の政策課題をターゲットにし、「基本計画」というのは、概ね10年のスパンで施策推進を図るものだ。現在、京都市では、現在の構想が2025年で終了することから、2026年以降2050年における京都のあるべき姿(ビジョン)の構想策定に向けた準備を進めているが、時代が大きく変化し、情報化やグローバル化の進展ともに、人口減少社会の到来によって、価値観も大きく変革を余儀なくされている中で、私たちの住む都市の確かな未来を見通すには、基本構想や基本計画の元となる、より大きな視野に立った知見が、何よりも重要である。京都市が昭和53年に宣言した「世界文化自由都市」は、すべての政策の最上位に位置付けられているが、「京都ビジョン2040」は、宣言より50年が経過した中で、「世界文化自由都市」という都市理念を、急激な時代の変化にも対応できるようバージョンアップさせたものとも言える。

「京都の未来を考える懇話会」が2013年に提案した「世界交流首都・京都」という都市理念(コンセプト)は、ウクライナ情勢にみる平和と戦争をはじめ、環境破壊や自然災害等、未曾有の地球的規模の課題に直面している「今の視点」で模索すれば、今ほど、その理念が希求されている時はないと確信する。2040年というターゲットまであと17年。世界」「交流」「首都」「京都」のキーワードは、未来の都市政策の礎になる不変の視点として議論を深めていく必要がある。

来年度には、京都市も次期京都市基本構想の議論が深まってくるに違いない。その起点となる京都市長選も2月に迎えることになり、京都の未来への進路が、今、大きな転換点を迎えている。17年先と言えば、今年生まれた赤ちゃんが17歳になる年数である。18歳選挙権行使を考えれば、この17年間の責任は現在を生きる大人の責任でもある。

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